Painter 7 の新水彩
水彩 コントロール
Painter 7 になって水彩は大きく変化しました。ブラシコントロールの水彩セクションからは、6の水彩にあった「Diffusion ぼかし」と「Wet Fringe 水彩境界」の設定がなくなり、まったく新しい設定項目に置き換わっています。また、ここの設定が互いに影響してブラシの描き味に反映されるので、設定がとても複雑になりました。以下はこのあたりについての覚え書きです。ユーザーガイドの日本語訳は例によってわかりにくいので、英語の用語を優先します(日本語ユーザーガイドの用語はカッコ内)。またここの説明はユーザーガイド(英語)を参考にするだけでなく、実際の水彩ブラシの挙動を観察して、かぶら屋が独自に書いています。
Wetness (湿り具合)
「水分量」です。これは単独ではわかりやすい項目ですが、他の項目との相互作用ではなかなか複雑になってきます。水分量が多いと絵具がより広く広がり、筆の毛足は目立たなくなります。
水分量「0」のブラシはそれ以外の水彩ブラシとは少し異質で、この2つの種類のブラシの間では色がうまく混ざらない箇所がときどきあります。また、水分量「0」で描いたストロークは「水彩レイヤー全体をにじませる」を実行すると 消えて しまいますので注意。
Pickup (ピックアップ)
「ブラシが触れた部分の絵具の再拡散の量」です。Pickup の数値が大きくなるほど、紙の表面にすでにある絵具の粒子がブラシの水分にたくさん拾い上げられます。その後、水分量や拡散量(ぼかし)の設定にしたがって水分に乗って移動します。(Bleed と違って、ブラシの毛足は色を拾いません。)
Dry Rate (乾燥度)
「乾燥速度」、すなわち、「水分の蒸発の速度」です。水彩ブラシの水彩アクション ― 水分とそれに乗った絵具の拡散および紙への浸みこみ ― は、水分がなくなると同時に終了します。乾燥速度が速くなると、水彩アクションは迅速に終了します。
Evaporation Threshold (蒸発速度)
「蒸発限度」です。水分の残りがどのくらいになるまで水分の拡散を続けるかをコントロールします。数値が低ければ長く拡散が続き、高ければ拡散はすぐ終わります。
Diffusion Amount (ぼかし)
「拡散量」、すなわち、水分に乗って絵具が拡散する(にじむ)度合いです。にじみの「足の速さ」とも言えます。6までの「Diffusion ぼかし」と同等ですが、他の項目と相互関連しています。
Capillary Factor (キャピラリーファクタ)
Capillary というのは「毛細管」です。理科で「毛細管現象」というのを習ったと思いますが、ああいうふうに紙の細かい組織が水分を吸う現象をシミュレートします。ブラシ設定としては「にじみのテクスチャ効果」と考えていいと思います。テクスチャにそってにじみの足が走るようになります。またテクスチャの山の部分(黒が濃い部分)からよけいに水分が蒸発するので、その部分に色が集まってきます。数値が大きいほどこの度合いが強くなります。
Grain Soak-In (粗さの浸透度)
「表面の水分吸収のテクスチャ効果」です。数値が高いとテクスチャが強く反映されます。
- Accurate Diffusion (正確なぼかし)をオンにすると、細かい単位でにじみ効果が計算処理される。結果として、マダラが減り、外側へ向かうにじみの広がりも少なめになる感じ。色の重なりについては、この項目はオンのほうがいいようだが、にじみが減りすぎるときもあると思う。
- Wind (風向き)は、わかりやすい。重力効果として考えたほうが使えるかも。
設定による変化の例
何はともあれ実際にはどう変化するのか、設定によるストロークの変化を並べてみます。基準として使ったのは右の設定のブラシ。Dab Type は Water Color Camel Hair です。
テクスチャは 【 テクスチャの作成 】 の例にあげている、ガーゼをスキャンして作ったものです。まずオレンジのストロークを描き、少しずらして鈍い青で同じストロークを重ねています。「ストロークの再生」機能を使って、完全に同じストロークを繰り返しました(グリッド併用)。
Dry Rate を 90% に上げた。乾くのが速いのでにじまない。
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基準にしたブラシのそのまま。少しにじんでいる。
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Wetness, Pickup, Diffuse Amt, Cap Factor をそれぞれ 90% に。
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Pickup, Dry Rate, Evap Thresh, Grn Soak-In を 90% に。にじみは少なめで、テクスチャが出ている。
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Wetness, Pickup を 90% に。にじみが広がる速度はあまり速くないので、なめらかにボケてます。
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Dry Rate, Evap Thresh を 5% に。乾くのがぐっと遅くなり、よくにじみ、色もよくボケています。(でも重い。)
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もうひとつの水彩
Dab Type (描点の種類)には「水彩〜」と名がつくもののほかにも「円形」、「ブリストル」、「取り込み」が使えます。描点の種類をこういったものに変更すると手法が選択できるようになるので、「水彩重ね塗り」、「水彩塗り混ぜ」、「水彩色消し」のどれかに設定します。
「水彩塗り混ぜ」が選べるものの、それだけでは 6 までの水彩と違ってすでに置かれている色の上から違う色を塗って下の色を消すことができません。すでに置かれている色をどかすためには Pickup (ピックアップ)の数値を多少上げます。カスタマイズの実例は 【 Painter 7 補完情報 】 のリンクにあります。また、Wetness (水分量)がゼロの「水彩塗り混ぜ」タイプのブラシで描いたストロークなら、同じタイプのブラシで塗潰すことができます。
Painter 7 の水彩ブラシのバリアントのなかに最初から入っているものとしては、「スポンジ水彩」が「取り込み」タイプのブラシです。
水彩ブラシで重すぎる設定を避ける
水彩ブラシは実際にある時間をかけて水分の拡散と乾燥をシミュレートするので、まだ水彩アクションが進行中のストロークがいくつかあると、次のストロークが描けなくなります。水彩アクションの進行中は、オブジェクト・パレットの該当レイヤーの水滴のマークが動いています。水彩ブラシを重くする要因には次のようなものがあります。
- Dab Type (描点の種類)がキャメルヘア・ブラシやその他のレンダーがかかったブラシ(ブリスルスプレー、平筆、パレットナイフ)のとき、サイズ・セクションの Feature(密度)は、絵筆の毛の間隔の設定ですが、この数値が低い(=毛の密度が高い)と絵筆全体では 毛の本数が多くなり、Painter ではこれを複合的に計算処理するため、重くなります。同時に、筆に乗る絵具の量が毛の本数に比例するので、色の濃さにも影響します。
- 水彩アクションが長く続く結果になる設定は、すべてブラシを重くします。ですから、Wetness (水分量 / 湿り具合)= 大、Dry Rate (乾燥速度 / 乾燥度)= 小、Evaporation Threshold (蒸発限度 / 蒸発速度)= 小、の設定でブラシが重くなります。重くなる設定を複数組み合わせると、非常に重いブラシになってしまいます。
水彩レイヤー関連コマンド
いずれもオブジェクト・パレットのレイヤー・セクションのメニューから実行します。
- Wet Entire Water Color Layer (水彩レイヤー全体をにじませる) ― 現在選択している水彩ブラシの設定にもとづいて 水彩レイヤーに水分を与えます。水分量や拡散量、蒸発限界などの設定に応じてしばらくにじみが実行されます。水彩アクションが長く続くブラシを選択してこのコマンドを実行すると、処理が延々と続きます。ブラシ設定が重くて処理が長く続いた場合、UNDO できません。
- Lift Canvas to Water Color Layer (水彩レイヤーにキャンバスを乗せる) ― キャンバスにある絵具を「水彩レイヤーに拾い上げる」機能。水彩ブラシで描き足して混色できるようになる。1回だけ UNDO すると、消去されたキャンバス部分の描画が復活するので、予備を取っておけます。
- Dry Water Color Layer (水彩レイヤーを乾燥する) ― 水彩アクションの処理がいつまでも終わらないときは、これで中断。
- Convert To Default Layer (通常レイヤーに変換する) ― これが 6 までの水彩の「乾燥」にあたると思います。同じレイヤーに通常のブラシで加筆することができるようになります。(同時に水彩での加筆はできなくなります。)
できないこと
- 6までの「水彩境界」はなくなりました。
- 「塗料」の「にじみ」は水彩では機能していません。「塗料」で「補充量」を下げて「にじみ」の数値を上げると、色が黒っぽくなってしまいます。「補充量」の調節そのものが機能していないので、ストロークの絵具量を薄くするには「不透明度」で調節するか、キャメルブラシ系であれば「密度」、描点の種類が「ブリストル」であれば「厚み」、「取り込み」であれば取り込みイメージの平均的な黒さで調節します。
明らかなバグ
- Capillary Factor(キャピラリー・ファクタ)の設定は、スライダでは 0.000 から 0.100 の間での設定ですが、ブラシが xml ファイルに保存されるときにここの数値が小数点以下1桁に切り下げられてしまうため、保存されるのは 0.000 か 0.100 しかありません。
- この数値は直接 xml ファイルを編集することで小数点以下3桁まで設定することができますが、ブラシを読み込んだときに、毎回「バリアントを初期設定に戻す」を実行しないと、設定された数値が反映されません。また、「水彩キャメル」などレンダーがかかる水彩ブラシでは、ちょっと他のブラシに持ち替えただけで、この数値の設定が消えてしまいます。
このバグは Painter 8 で修正されました。最初からついてくる水彩ブラシはすべてキャピラリが 0.000 か 0.100 になっていますが、これを 0.010 くらいまでの小さめの数値に設定しなおすと、ザラザラがなくてテクスチャの表情のある水彩ブラシになります。
(Last Modified: 2003/07/07)
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