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circle萌え単サンプル補完計画

なんだか英語関連で「萌え単」(『萌える英単語・もえたん』)というのが話題になってるそうじゃありませんか、と情報を探しにいたら、出版元で 【 サンプルページ 】 が公開されていました。内容の狙いどころはいいと思います。ストーリーもあるそうで、それもなかなか面白いような評価を聞きます。しかし、この英語のレベルの低さはなんですかぃ。そこで、これをこのまま信じてはいけない、という警告として、ちょっと解説を書いてみることにしました。青字 が引用です。

言いたいのは「英語も日本語も本来とても論理的」であるということ。表面に出ていない部分でも論理というものはある。ちゃんと論理的に書かれた文をインプットしていれば、生来の分析能力の高さによって習熟速度は少し違いはするが、英語の理解はちゃんとできるようになっていく。インプットによって頭の中で「英語解析プログラム」が自動的に組上がっていくのである。正しいインプットであることが重要。

間違った例文を読んでしまうことが「英語解析プログラムの自動生成」に与える害の大きさは、白い絵具の中に黒い絵具が 1 滴混入しただけでもかなり重大問題なのに似ている。参考書を書く人はこのことをよくわきまえて、責任を持って書いてほしい。

このページの解説は、インプットの集積から法則を抽出するよりは少し効率的に解析プログラムの足しになるような内容を心がけました。が、何がなんでも論理的説明を目指しているために、かえって読みにくいと感じる人もいると思います。なんでこの英文の書きかたはダメか、というところまで理解する必要がないときは、単に別解として提示してある例文をインプットするだけでじゅうぶんです。

アレゲな人々

アレゲな人々が、英単語帳を作っているらしい。
They say the lunatic people edit the English word book.

「アレゲな人々」は特に奇をてらうのでなければ geeks (単数なら geek) でいい。lunatic はマズいだろ。だって、日常生活できないレベルの「精神病者」を 悪い意味 でいう時に使う単語だもん。差別用語。自らを卑下する書きかただとすると、絶対に使えないわけでもない。ただ、「この単語帳はこんなアホが作ってまんねん」的な意味だとすれば、ここで the がつかないんですよ。the があることでこれは絶対に自分らについて言ってる文章ではなくなるわけ。自分たちではない、他のしかも特定されている集団が lunatic だと言っている。それは差別表現。

たとえばスラッシュドットのサブタイトルは「アレゲなニュースと……」となっているが、英語本家は News for Nerds ... である。geek と nerd の違いは、geek は「オタク」を含む「趣味の濃い、ちょっとヘンな人」であり、nerd は「理系で頭はいいけど人づきあいがヘタ」といったところ。たぶん nerd のほうが言葉としては歴史が古い。nerd の特徴は(英語圏では)、胸ポケットにボールペン類をいっぱい差していて、そのためにポケットの底に穴があかないように「ポケットプロテクター」を使っている、ということである。geek には特にこの特徴はあてはまらない。

pocket protector の実物については、"pocket protector" で Google 検索すれば見られる。" でくくるとフレーズ検索になることをおぼえておくように。実際の稼働状況はエディ・マーフィーの「ナッティ・プロフェッサー」の冒頭で見ることができる。すなわち、あのクランプ教授は nerd の典型。

対象を特定する the の扱いは重要である。日本人が英文を書く場合、大意が伝わればこのへんはわりとどうでもいいが、英文を読み解くときに the のあるなしでとても意味が変わってくることがあるので、あなどらないように。

また、edit は何かすでに材料があるのを「編集する」意味であって、材料を集積するほうは compile と言うので、こっちのほうがよりふさわしい。ここで現在形の edit を使うと、それが「日常的習慣・恒常的行為」の意味であることが推測される、すなわち、このアレゲな人たちは「単語帳つくるのが本業」という意味になる。その場合、word books と複数形にならないと自然じゃない。

He writes books. と言うと「彼の仕事は著述業」という意味(副業かもしれないが)。He wrote a book. だと、「彼は本を一冊書いた」という行為の話で職業は何だかわからない。「彼はね、詩を書くんですよ」と言うと、いつも詩を書いている「詩人」である意味になり、「彼はね、詩を書いたんですよ」とは違う、とか、日本語でも同じ論理。

そういうわけで、別解。

(特定されない、とある)アレゲな人々が、英単語帳を作っているらしい。
I hear that some geeks are compiling an English wordbook.

They say ... でもだいたい意味は同じ。自分はこう聞いたよ、というときが I hear で、街でこういう噂があるよ(他人事)とか、「人は〜をこう言うが」のときが They say な感じ。この二つは書き換えとかの問題に使われるけど、言葉はちょっと違うとニュアンスは絶対に変わる。I hear や They say のあとの that はあってもなくてもいい。ちょっとしたリズム感の違いと好み。

さて、この例文は lunatic という単語に対して作られたものだから、何か lunatic が入ったものも出しとかないとね。

こんな夜に外に出たがるのはバカか××でしょ。
Only a lunatic would want to go out on such a night.

外は大変な吹雪で零下 30 度で積雪 1.5 メートル、パーカ一枚で出ていくのは、ね、と言ったところ。

豆知識

その豆知識にサングラスの男は心底から感心し、ボタンを連打した。
Admiring the trivia greatly, the man with sunglasses pressed the button again and again.

確かに trivia は「豆知識」と訳す場合もあるかもしれないが、「豆知識」というのは「おばあちゃんの知恵袋」的な実際の生活に役立つものを言うので、トリビアとはちょっと違う。ちょっと違うところに敏感な人たちがこれをカタカナで「トリビア」と言ったわけなんだから、「トリビア」と言ったほうがいいと思う。

さて、trivia を辞書で確認してみよう。これは「複数」しかない、と書いてある。複数しかない、というのは「細かいもんがゴチャゴチャ集まった全体」でイメージすべきものである、ということである。たとえば data。コンビニ A の売り上げデータには、「おでんの白滝の売り上げ個数」も「20 代の客が一人平均使った金額」も、まあいろいろ入っていて、それをまとめてデータと言うわけです。

で、data の単数は datum なんだけど、これはふつうにはあまり使わない。data のかたまりから切り出したものは a piece of data なんである。トリビアも 1 件ごとの話なら a piece of trivia になる。で、別解。

The man with dark glasses was so impressed by the piece of trivia that he hit the button repeatedly.

「とても 〜 したので 〜 した」というとき、「ここは理由を述べている」ということをはっきりさせるには so that 構文を使ったほうがいい。-ing を使った分詞節は他の意味でも使えるので意味が曖昧になる。admire は人物や、モノや、人の態度などを「偉いなあ、すごいなあ、尊敬しちゃうなあ」と思うことである。自分の位置より上に置く行為。トリビアにはちょっと合わない。be impressed も何かが「すごい〜」と思うときに使うけど、これは自分がどのくらいインパクトを受けたかについて語る表現。このへん微妙ですが。

サングラスはたしかに sunglasses だけど、sunglasses と言うとほんとに外の太陽光線がまぶしい場所で使う場合に言う。ファッション(職業上の好み)として使う場合は、たぶん透明なサングラスでもないだろうし、dark glasses と言うのが普通。いわゆる「黒メガネ」ですね。

ボタンを「押す」のはたしかに press を使うのが普通。が、press というのは「クリーニング屋でズボンのプレスをしてもらう」とか「プレス機」とかでイメージするように、「ぎゅ〜」とか「ぷしゅ〜」とかいう感じ。「圧迫する」んである。「ぎゅ〜」を複数回すばやくやるのはムリ(ずっと持続するのは可能)。なので「連打」は hit を使ったほうがいいでしょう。日本語だって「打」になっているのは意味がある。

「何回も」という意味で again and again というのは間違いじゃないけど、とても口語的な表現。きっちりした表現なら repeatedly (何度も)や multiple times (複数回)。

で、admire を使ったもう少しまともな例文を。

その人気のない屋敷に誰よりも先に足を踏み入れた彼の勇気には感服した。
I admired his courage for entering the abandoned mansion ahead of everyone.

彼は屋根の上にすわって、街を照らす美しい朝日にみとれていた。
He sat on the roof admiring the beautiful morning light on the city.

I admire the game's great graphics.
あのゲームのグラフィック、すごいよね。

現代美術

彼の作品だけが現代美術なんて、ズルイと思う。
It is not fair for what he creates to be treated as contemporary art.

仮主語の構文で for の後に意味上の主語が、うんぬん、としようとしたのかもしれないけど、for の後が長すぎでムリ。普通に that 節を使うほうがずっといい。not fair はとてもよく使うフレーズなので、例文に使うのはいいことなんだけど。

上の英文の例では「〜 だけが」の意味が抜けてるけど、いいのかな。などと考えつつ、別解。

似たようなものが多々あるなかで、彼の作品だけが現代美術扱いなのはおかしい。
It is not fair that his works alone are regarded as contemporary art while similar works by other creators are not.

art とか artist とかいう単語は意味上の分類でまさにこの例文のような問題が絡みまくり。

海外旅行

オレ、まだ海外旅行したことねーよ!
I have not traveled abroad yet!

文法が違うとかはない。が、こういう「まだないんじゃあ」(だったら何だよ、悪かったな、あるいは、かわいそうだと思えよ)というような気持ちはこれでは伝わらない。「!」をつけてごまかすのはよくない。このセンテンスに「!」はつかない。また yet もなんかしっくりしない。文法的にダメというより、意味的にここにはそぐわない。「まだやったことない」は never がふさわしい。「まだ」と「ない」を分解して not と yet に分けても意味が微妙に違う。

not と yet を使ってもいいのはたとえば、I haven't finished the homework yet. とか。こういう問題は「生徒が英文を書く側」であるときはあまりキツく言うべき問題ではないが、お手本にヘンな文を与えるのはよろしくない。

こういう意味を伝えたい場合の文として、もっと適切なのは次のような表現。単純だけど。traveled も可。かしこまった表現になるけど。どっちの単語でも旅行の内容が「観光」であるか「仕事の出張、あるいはその他か」はわからない。

I have never been abroad.

これだと複雑な気持ちが表現できてない、と感じる場合は、言葉を補えばいい。

そりゃオレは外国に行ったことがないけどさ、だから何?
So I have never been abroad. What's wrong with that, huh?

ミサイル

だーっ! 高価なミサイルをそんなに気楽にポンポン撃つもんじゃねえっての。
Dahhhhhhh! Don't launch lots of expensive missiles so quickly.

まず、日本語。「だーっ」とか「じゃねえっての」という文体に「高価な」という単語は入ってこない。「たっけ〜」と言うでしょ。言葉の扱いは慎重にね。「武器」にもなるし。

で、全体としてはとてもヘンな文なのだが、文法で簡単にここがヘンと言えない困ったヘン。lots of で「数が多い」ことを表現するのは間違っていない。でも「短時間に弾数を消費しすぎ」という「いきすぎ」を表現するのに、so quickly とこの lots of の組み合わせではダメ。まず、quickly というのは実行のすばやさを言う。launch という動作を quickly にやることは可能、だが、それは回数(消費弾数)とは基本的には別の問題。また、短時間であることと弾数が多いことの両方が「いきすぎ」ではないと結果が「いきすぎ」にならないので、lots of ではなく so many を使う必要がある。

同じ構文でもう少しわかりやすい例を。「短い時間にそんなにたくさんケーキを食べるのはやめなさいよ」というのを、上の例のように「時間の問題だけが行き過ぎ」で表現すると、Don't eat many cakes in such a short time. となる。「量が多すぎ、時間が短すぎ」を両方入れると、Don't eat so many cakes in such a short time. となる。前者は論理的に成立していない、ヘンな文。

日本語から別解を作成すると、こんな感じ。

Moron! What do you think you are doing using up those expensive missles so fast?

「だーっ」の意味を具体的に「バカたれ〜」と解釈してみた。「バカたれ〜」という意味の単語はいろいろあるけど、なんとなく軍隊の上官ぽいかも、と moron を使ってみた。でも、こういう「悪口」単語は外国人である日本人は避けてとおるが吉。英語でそのまま「ダーッ」(Duh!)と言うと「うわ〜、しまった〜」とか、「げげっ」的な感じになると思うなあ。Dah! という間投詞は見かけたことがない。

What do you think you are doing 〜 ing というのは「〜 するなんて、何考えとんじゃ」という言いかた。use up は消費する(残りをへらす)。use up との組み合わせなら fast じゃなくて quickly でも可。

この例を見ても、明らかに「日本語の例文」を先に作って、それに合わせて英作文をしている。それがちゃんとできてれば偉かったけど、それって難しいんですよ。ナメちゃいけません。オタクな英語の例文を Google を駆使するなどして拾ってきたほうがよかったんでは。そのまま使わずにちょっと(間違えないように)変更して使えば、著作権的にもクリアできそうだし。

目的

久しぶりに会った弟は、地球を滅亡させるという目的を忘れてしまっていた。
I met my brother after all this time. He had forgotten his purpose to destroy the earth.

meet はけっこう扱いがむずかしい単語で、「あらかじめ計画しておいた会合で会う」とか「初対面でお互いに自己紹介するか、ほかの人に紹介してもらう」、「偶然に出会う」、「お出迎えする」などいろいろ意味があるわりに、ふつうに「会う」の意味には使わない。その意味で使うのは see。これはかなり重要。

「after all this time」というフレーズのニュアンスは「こんな後になって(今ごろいちゃもんつけてくるなんて)」というふうに、this があるために、聞く(読む)ほうにもすでに把握されている期間であるという前提になる。シンプルに「長い期間のあとで」という意味を伝えるなら他の表現のほうがいい。あるいは反対に「久しぶり」というのは英語にしにくい単語である、とも言える。「destroy the earth」というと「地球という惑星を物理的に破壊」なので、ここでは意味が違う。

When I saw my younger brother after our long separation, I realized that he had totally forgotten his mission of taking over the earth.

「久しぶりに」がなぜ訳しにくいか。訳しにくい単語やフレーズは英語から日本語もその逆もいろいろある。理由は単純に、「ちょうどあてはまるものがない」から。こういうのは意味が伝わるように補完して処理する。「久しぶり」というのは「長期間」という意味ではない。「長期間」+「それをやってなかった」という意味の組み合わせである。そこが訳しにくい。だから、ここでは「長いあいだ生き別れだったあとで」と訳してみた。

日本語の文章の前後を切るだけならいいが、論理的な繋がりは示しておいたほうがいい。なんの接続語もなく切れているのは、小説などで淡々と語るときの文体。それはそれで「あり」だが、もとの日本語がそうじゃない。

「弟が 〜 忘れてしまっていた」ことを認識したのは「わたし」である。だからその「わたし」視点を全体に使って英語にしたのが上の別解。こういうのは大学入試の英作文で要求されるレベルではないとは思う。参考書を書く人がちゃんと書いてさえいれば、読者があまり細かいところまで気にする必要はない。

purpose は直接「to + 動詞」がつかない。purpose 「of 動詞 + ing」になる。take over は「乗っ取る」とか「支配権を奪取する」という意味。ここで「弟」は外から送り込まれたことなども考えると purpose より mission (与えられた使命)を使って mission of taking over the earth とするほうがいいと思った。

take over the earth は「地球全体の支配権を握る」であるが、ここで「滅亡させる」相手が「人類」と解釈すれば、destroy the human race という英語もいける。

ここで purpose を使った例文を。

この会合の目的はわが社(このグループ、その他)の来年の計画について議論することである。
The purpose of this meeting is to discuss our plans for the coming year.
We meet today for the purpose of discussing our plans for the coming year.

(We meet today to discuss 〜 でも意味上はほとんど同じだが、「これが目的なんだよ」という強調度が減る。)


英語の質問は、あなたに英語を教えている人、あるいはこの参考書を書いた著者にしてください。どうしても尋ねたいことがあって、それが 3 語くらいで返事ができることなら、「1 行伝言板」(過去ログなし)に書いてください。

[ 2004/12/02 ]
英語ネイティブの「もえたん」についてのコメントリンク。

  • To Know Is One Thing, To Teach Is Another in Moonjihad's Page of Nothingness。例文について、「The first example sentence in the book claims that “They say the lunatic people edit the English word book.” “They” couldn’t be more right. The book is filled with broken English and ridiculous typographical errors.」との評。
  • Interesting Japanese book #15 in Tokyo Damage Report。「the unintentionally poor grammar is way more 'wacky' than their intentional humor」というのは、実に的確な指摘。このサイト、【 Tokyo Damage Report 】 は他のページも興味深いものがあります。

(Originally written: 2003/12/24; last update: 2004/12/02)

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